今こそ奮い立つ男の物語(2) - インタビュー 聞き手 編集部T子 –
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女神を出現させる男の「S」
T子 作品のコンセプトが、ようやく三田さん自身の欲望に根付くものになってきたのですね。
三田 今描いているのは、たとえば牙や腕といった部位が欠損した状態でも、悠然と優美に振る舞う猪や象の姿などです。男性性をテーマにするからといって、エロ、グロ、暴力といった要素は、容易にインパクトを得られるため分かりやすくも、ありふれている故に手軽に使用すると安っぽくなってしまうため、現在は採用していません。
以前はもっと観念的に描いていましたが、今は少しずつ自分の衝動に接近して制作出来ているので充実感があります。
T子 いま伺った三田さんの発言は、男女平等と言われる現在の世の中では男尊女卑として捉えられる可能性がありますね。
三田 それも覚悟しての上ですが、本当の男女平等って、それぞれの性差を理解してお互いの性質を発揮する平等の事だと思っています。いま話したのは、肉体に起因した原理的な男女の関係性についてですが、僕らが肉体ベースで生きている限りは、そうした根本的・原理的な関係性からは逃れられない。僕らがデジタル一辺倒になり、完全に肉体を必要としなくなったらわかりませんが。「価値観の多様化」という言い方をよく耳にします。様々なものが並列化された、ポストモダン社会です。この風潮というのは気をつけないと、好き嫌いばかりが判断基準になって、善し悪しを分別できなくなってしまい危険です。ですから、僕のこうした発言で気分を害したり、間違いを指摘したくなる人もかならずいるでしょうが、それを引き受けながらも言い切らなければいけないと思いますので。古い男の話に聞こえるかもしれませんが、目指すのは新しいステージの男尊女尊です。僕らの根源に由来する時代や環境の変化で変わらない本質を弁えた上で、変化すべき側面を考えていかないと、人間の本当の進歩はもたらされないと思うんです。男女平等ということも、生きものとしての本質を理解せずに安易に主張し過ぎてしまうと、思わぬひずみを起こして不幸を呼んでしまう。女性が出産や子育てを、就職すること等と並列な選択肢として考えるのは危うい事だと思います。人間にとって、生物として根源的な営みや願望は個人的な願望と一緒の天秤に乗せられるわけがない。次元の違うことだと思います。
T子 しかし世の中は、そちらの傾向を強めています。
三田 そうやって何ごとも並列化するのが現代で、それがリアルな感性かもしれません。しかし注意しなくてはいけないのは、僕らが原理的に持っている宿命を今あらためて強く認識しないと、個人の欲望も追求できなくなってしまうということ。
だからこそ僕は、ファルスと言えるような「S」の力について主張したいのです。卑猥な意味ではなく、現代は男性の勃起の力がとても大事な時代です。夢や希望の形がはっきりと出なくてはいけない。男はフニャフニャであやふやにボヤけていたら駄目なんですよ。今は勃起不全の男達が増えてしまっているせいで、一部の女性達は、本来持っている女神性を開花できずにいるのかもしれません。
アートコレクターズ2018年1月号掲載記事より一部抜粋