今こそ奮い立つ男の物語(1) - インタビュー 聞き手 編集部T子 –

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修練を重ねた描画力をベースに、じっくりと発酵されたイマジネーションによって、耽美で幻想的な女性や動物を描き出す三田尚弘。漠然とした危機感やカオス、その渦中に生きる現代人の本質を覚醒させ、より活力を与えるべく、人間に対する根源的なアプローチを試み、新シリーズに挑んでいる。ここでは三田が考えていること、訴えたいことを自身の制作をリンクさせながら語ってもらった。論旨については賛否両論あると思われるが、思想を発信すること自体が制作に繋がるフィールドワークのひとつと考え、制作プロセスの一部として実践している三田のスタンスは興味深い。

女神を出現させる男の「S」

三田 4年近く前に「アートコレクターズ」誌上で評論家の宇野常寛さんと対談させて頂きました。(2014年4月号)。あの時は、「現代社会って、こうですよね」という情報の解析で終わってしまいました。そういう現実の社会を踏まえてその先の想像力の提言が出来ていなかった。あの対談を経たことで、それを踏まえてのより前進したコンセプトをあらためて探るようになりました。

T子 どんなコンセプトに辿り着いたのですか?

三田 自分と同世代、もしくは自分より若い男性達を見ていると、一見リア充っぽく振舞いながらも実際は多くが内向的で、どこかオタク的なんです。そんな彼等は無自覚な現実逃避が恒常化して、こちら側=現実社会ではなく、向こう側=仮想世界にしか自分を許し受けてくれる女神を見出せなくなっている。それがこれまでの制作のコンセプトでした恋愛や性行為も本当はしたいのに実現できず、結婚や恋愛をすっかり諦めている者が大勢いる。女神がリアルな存在に見出せないという現象は、男性の弱体化に起因すると考えられますが、この現象は、個人を超えて社会問題になりつつあります。

T子 もう少し具体的に教えてください。

三田 男性が矛だとしたら、女性は楯。ここでは身体性に基づく男性性を「S」、母性や優しさや受容力といった女性性を「M」と呼ぶことにします。労働環境の変化によって地位も経済力も得て自信をもった現代女性にとって、「S」を発揮できていない近頃の男性は、じつに頼りなくて魅力がない。一般的に女性は自分より頼りない見下げる対象をパートナーに選ばないですし。

T子 「S」と「M」の定義をもう少し詳しく教えて下さい。

三田 性的な意味というより、本質的な意味で欲望の形を示すものです。「S」が凸であり導くものだとしたら、「M」は凹であり導かれるもの、という風にイメージしてください。僕は肉体性と精神性が一致することが真に幸せだと考えています。生物としての原理に沿うのが幸福であると。
ここで注意したいのは、女性は生まれた時、肉体は「M」として生まれるんですg、精神的にはまだ「S」なんです。子供というのは男でも女でも、基本的に「S」。わがままで、自分の存在を誇示してくるのが特徴です。

T子 なにかしらのプロセスを経て女性は「S」から「M」になると。

三田 そこが重要です。乖離していた女性の肉体と精神が一致していく主なきっかけは、強烈に魅力的な異性の出現にあると考えています。わがままに育った少女は、ありのままを承認してくれている男性が自分のことを愛してくれていると考えます。しかし魅力的な男性の出現によって、女性ははじめて「受け入れる」、つまり「導かれる」ことの喜びを知るわけです。この時、「S」だったワガママな少女は特定の男性の前において「M」としての女性へ変化する。これまで数多(あまた)いたゴマすり上手のイエスマンではなく、リスペクトの対象となる男性から自己の理解承認を幸運にも受けられた時の喜びは、これまでのものとは違うはずです。

T子 魅力的な男性というのは、たとえばお金があって身長が高くて、イケメンで、ということですか?

三田 それも重要……かもしれませんが、00年以降の現在のような社会が長期的に困難な状況下では、ポジティブに、上を向いて理想の獲得に生きる姿勢自体が、それだけでも男としての魅力になり得るんじゃないでしょうか。各々の目の前に立ちはだかる様々な現実を引き受けた上で、この正解で自分はこう生きていくのだという形をきちんと語る。そういう「S」の決断力と包容力が、肉体と精神とが乖離していたSの少女達を救済するのではないかという僕なりの仮説です。そうやって女性の肉体と精神の一致をもたらした男というのは、その子にとって言わば救世主。稀少だし、重要な男として不動の存在になるはずです。その時にこそ女性は、性の搾取を受けることなく本当の愛情(許し受け入れる喜び)を発揮する。そんな風に女性を変化させるだろう男の姿勢を僕は美しく思うし、そういう男を夢想し、神格化して描きたいと思っています。ちなみに神というのは理想という観念の具現化であって、現世においそれとは姿を現さないものなんでしょうけど(笑)

 

アートコレクターズ2018年1月号掲載記事より一部抜粋

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